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家族や恋人など近しい人がAV男優だったら誇れますか? 『AV男優の流儀』はとんだ人生哲学書だった

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家族や恋人など近しい人がAV男優だったら誇れますか? 『AV男優の流儀』はとんだ人生哲学書だった

家族や恋人など近しい人がAV男優だったら誇れますか? 『AV男優の流儀』はとんだ人生哲学書だった

 

 アダルト業界の下世話な話を知りたい、くらいの比較的ライトな気持ちで読み始めた『AV男優の流儀』(鈴木おさむ/扶桑社)は、とんだ人生哲学書だった。ページを繰るごとに、例えばもし、家族や恋人など近しい人がAV男優だったら、手放しで応援できるだろうか、誇れるだろうか、人に言えるだろうか――そうではなかったとして、それは間違いとまでは言えないが、AV男優という仕事に対して誇れなかったり恥ずかしかったりするのは自分のエゴでしかない、とも自覚しておくべきだ。などと、自分と“AV男優という職業”への距離感を見つめ直すはめになってしまった。

加藤鷹「セックスはプロセスが9割」

 本書は、著者の鈴木おさむ氏と有名AV男優や監督の対談で構成されている。第1章では森林原人氏と鈴木おさむ氏が、第2章ではしみけん氏と、第3章は島袋浩氏、第4章はカンパニー松尾氏、第5章では安達かおる氏とそれぞれ対談。各対談の最後には、鈴木氏によるコラムが入っているのだが、氏はここで毎度毎度、自分と“AV男優という職業”を照らし合わせて、自省している。

「AVの中でするセックスは気持ちいいのか?」
 そう聞くと、森林(原人)さんは僕の目をまっすぐ見つめながら、
「鈴木さん、セックスしてるんですよ。気持ちいいです」
と言い切ったのです。
 もし僕が誰かに「テレビの仕事って面白いですか?」と聞かれたら、森林さんのようにまっすぐ相手の目を見て、
「テレビ作ってるんですよ。面白いに決まってるでしょ」
とは言い切れない自分がいる。  (本書 p47より)

 「AVの仕事=恥ずかしいもの、後ろめたいもの」という鈴木氏や読者が内心抱いてしまっている前提と、当たり前だが「誇りを持って仕事をしているAV男優」の構図が、本書の中でちょくちょく浮き彫りになる。もちろん、終始このような生真面目な仕事哲学論が展開されているわけではない。「60代のおばあちゃん女優を相手にしたときの話」(森林氏)や、「高校卒業直後、初めてもらったAVの仕事は食糞モノだった」(しみけん氏)などのエピソードや、AV男優を続けてきたからこそ分かる「AV女優に好まれる“ecoチン”論」(森林氏)なんかも語られている。ちなみに、森林氏自身は男優界イチの仮性包茎であるがゆえに、AV女優たちから絶賛されているのだという(その詳しい理由は本書にてご確認を)。

 また、森林氏による「どんな女がエロいのか論」も実に興味深かった。氏によると、「エロくなれるかなれないかは、人間愛が関係している」のだそう。「羞恥心や体液や粘膜が触れ合うことへの嫌悪感が邪魔をして、結果的にエロくなれなくなる」、つまり、人間の汚物に常日頃から慣れている保母さん、看護師、介護福祉士はエロくなれる素質が十二分にある、とのことだ。「男性が好きな女性の職業ランキング」などで、しばしば看護師や保母さんがランクインするのは、あながちイメージだけではなかったということか……。

 なお、本書で至言を連発している男優の森林原人氏やしみけん氏だが、森林氏は筑波大学付属駒場高校を卒業してAVの世界へ、しみけん氏も偏差値70を超える高校を出ている。この記述を見て、反射的に「もったいない」と思ってしまった。だがすぐに、「何が“もったいない”んだろう」とも思い直した。彼ら自身は、何ひとつ“もったいない”とは思っていない。

文=朝井麻由美

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