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「あいつに聞け!」が人を育てる

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「あいつに聞け!」が人を育てる

「あいつに聞け!」が人を育てる 

供給ラインの整備(3)~人材育成について~

 

ソーシャル・ビジネスの質を左右するのは「人の質」

 

  • フローレンスでのPDCA会議の様子
  •   人を採用したら、今度はその人を育てていくことになる。

      いわゆる人材育成である。

      とりわけ介護や保育、教育などの人的サービス業の場合、「人」が「商品」となる。その商品の質を維持するために、人材育成は必須要件だ。

      たとえば、新人とベテランの人たちとでは、経験の差はあっても、それがサービスの差になってしまってはよくない。利用者にとっては、新人もベテランも関係ない。その質は当然のごとく、つねに一定に保たれている必要がある。サービスを提供している以上、「AさんにできることがBさんにできない」は、組織のブランドを傷つけかねない。

      だからこそ、新人メンバーが入った場合、できるだけ早く「最低限ここまでのレベルには」という水準に行けるように育てていかなければならない。人材育成の仕組みをしっかり整えておくのだ。

     

    「社会貢献だから」「安いから」は言い訳

     

      ソーシャル・ビジネスやNPOの場合、このあたりを軽くとらえてしまうところが少なくない。「いいことをしているのだから、これでいいですよね」、あるいは「安い価格でやってあげているのだから、文句を言うな」という気持ちを持つ事業者も少なくない。これでは、利用者の信頼は失われるばかりで、しだいに組織の維持が難しくなりかねない。

      長期にわたって事業を展開していこうと思ったら、人材育成の仕組みを整えることは不可欠なのだ。

     

    現場に放り込むだけの「放置OJT」はNG

     

      人材育成の方法には、大きく2つある。1つが「OJT」(on the job training)。もう1つが「研修」である。

      僕は、どちらも行うことをすすめる。

      OJTとは、実際に現場で手を動かし、仕事を覚えてもらう方法。これがうまくやれると、ものすごいスピードで人は育ってくれる。ただし、「うまくやれば」。現場に放り込むだけの、いわゆる「放置OJT」では、まったく育たないという結果になりがちだ。

      OJTを効果的に行うには、同時に「研修」の実施が欠かせない。体で覚えてもらう一方で、知識をインプットする機会を設けるのだ。そうすることで、現場で覚えたことを体系的な知識の中に位置づけてもらえる。

      研修には「座学」と「実習」の2種類ある。

      座学とは、講師のレクチャーを通じて、知識や作業の一連の流れ(フロー)などを学んでもらうもの。実習では、ベテランや、ある分野に優れた技術をもつスタッフなどについて、実際にやってみないとわからないような暗黙知的な部分を身につけていってもらう(たとえば保育であれば、「子どもにどうやって話しかけるのか」等)。

      この2種類の研修を、入社した際に受ける「導入研修」だけでなく、その後も継続的に受けていくことになる。

     

    「この問題は、だれに聞けば解決できるか」

     

    •   導入研修はどの組織でも、たいていは実施している。一方で、継続的な研修はいいかげんになりがち。しかし僕は、人を育てるうえで、継続的な研修は欠かせないと考えている。

        そこで、とくに力を入れたいのが「ノウフー」(Know who)の共有である。「この問題は、だれに聞けば解決できるか」という情報のことをさしている。

        人材育成において、やり方を教える「ノウハウ」(Know how)はたしかに大事。それは、個人のレベルアップにつながる。

        しかし、1人が身につけられるものには限界がある。そんなときに役立つのが、ほかのメンバーのやり方。「この分野なら、あの人が強いよ」といった情報をメンバー間で共有できれば、1人がすべてを身につけなくても、対応できる範囲が広くなる。「ノウフー」にはそうした効果がある。

       

      米ゼロックスの修理工が実証した「ノウフー」のすごさ

       

        「ノウフー」(Know who)の力には、学問的な裏づけもある。

        米ゼロックスのパロアルト研究所に所属する文化人類学者ジュリアン・オーアの研究がそれだ。

        ゼロックスのコピーの修理工(サービスマン)たちは、コピー機のマニュアルすべてを覚えているわけではないにもかかわらず、複雑な不具合をもかなりの確率で修理することができる。「それはなぜなのか?」とオーアが調査したところ、彼らがカフェテリアで交わす会話にその「答え」があったのだ。

        そこで話されていたのは、自分たちの「戦自慢」。「俺はこんなたいへんな故障を直したんだ」と、それぞれが自分の武勇伝を語る。それが結局は、「こういう故障のときは、あいつに聞け」(ノウフー)という情報の共有となり、修理できる範囲をぐんと広げたのだ。

        じつはフローレンスの研修でも、この方法を活用させてもらっている。

        スタッフの継続的な研修の一環として、「ケースの共有」というものを行っている。

        現場の保育スタッフたちは毎週どこかの曜日で本部に集まる。その際、自分が悩んでいる問題などを持ち寄り、そのとき集まったメンバーに意見を聞くのだ。「このケースに関して、私はこう取り組みました。みんなはどう思いますか?」

        こうしたやりとりのなかで、スタッフたちは自分の仕事で起こりうるさまざまな問題を知り、だれがどう対処したかも知っていく。つまり「ノウフー」の共有。

        その結果、自分がいざそうした問題に遭遇しても、適切な人からアドバイスを受け、すみやかに対処していける。

       

      研修後にPDCAでフィードバックを

       

        最後に、研修を実施するスタッフについて。

        最初は1人でスタートすることになると思うが、組織が大きくなってきたら、数人のチームにしていくといいだろう。

        研修は実施したらしっぱなしではなく、「PDCA」を回していくこと。つまり、計画を立て(Plan)、実施し(Do)、受講者からのフィードバック(おもにアンケート)を受け(Check)、それに基づき改善していく(Action)。

        そうやって研修のコンテンツ自体も進化させていくことが、質の高い人材を育てていくことにつながっていくのである。

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