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フランスの経済学者、トマ・ピケティ教授の『21世紀の資本』(みすず書房)の衝撃余波が続いている。
「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/2月28日号)は、『ピケティの格差時代サバイバル術』という特集を組んでいる。「成長しても格差は拡大する――ピケティ氏は成長と格差の隠れた因果を見破った。だがミクロの解決策は示していない。どうしたら格差の渦にのみ込まれないで済むのか。その術を徹底的に追う」という内容だ。
今や世界的に有名になったピケティ氏の不等式「r(資本収益率)>g(経済成長率)」。
「従業員の年収はせいぜい経済成長率のg並みにしか伸びない。一方で株・不動産への投資は、ならしてみると資本収益率のrだけ伸びる。すると汗水たらして働くよりも、不労所得で生きているほうが富の蓄積は速い。だから中間層と富裕層の格差は拡大する」(同特集より)
しかし、格差解消のための具体策は「全世界で余すことなく超富裕層に累進課税するという、途方もなく大きなアイデア」で、ピケティ氏本人が「実現する見込みは少ない」と認めているほど頼りない。「格差拡大に備える術は、自分で見つけるしかない」(同)として、「東洋経済」は独自の解決策を展開するのだ。
まず、富が蓄積できるr、すなわち投資については、低金利・低成長が続く中、日本株に投資することを提案する。ストラテジストは、重工業銘柄などを勧める。
「今後も低成長が続くだろうから、日本の国債や定期預金といった国内の確定利回り商品を買う意義はなくなっている」
「足元は円安で、世界的に見ると好景気なのは米国くらい、この基調が変わらない向こう3年、少なくとも年内は、円安・資源安・米国好景気の3つの恩恵を受けるトリプルメリット銘柄に投資したい」(ともに同)
次に、年収が伸びないgについてはどうか。特集記事『低成長下でどう働くか?』では、「滅私奉公で働く動機が減っている」「仕事を早く終えて家族との時間を増やす」という雇用ジャーナリストの声と、「結果だけでは不十分、出世には忠誠心が必要」「今よりも死ぬほど働くしかない」という銀座クラブ経営者の声を紹介している。死ぬほど働けとは極端な意見だが、雇用ジャーナリストは国内低成長企業を念頭に、銀座クラブ経営者は外資系企業を念頭にしている違いがある。●成果主義の「プレジデント」
また、「プレジデント」(プレジデント社/3月16日号)では、『世界初!お金に困らない「ピケティ」実践講座』という特集を組み、自己投資を提案している。
「今、私たちに必要とされるのは、日々の仕事の中に『rの力』を組み入れることではないだろうか」
「個人が持つ資産というのは、何も金融資産に限られる話ではないのだ。これまでのキャリアで得られたノウハウ、人間関係、知識など、あらゆるものが資産であり、それらを総動員することで、『自分』という資産から収益を得ていくという考え方がより重要になってくる」(ともに同特集より)
同特集は、自身に投資してスキルアップすることを推奨している。
「rの部分は質的な部分(自分の価値を高めるための仕組み)であり、gの部分は量的な部分(労働時間)と考えてもよい。rの部分を継続的に上昇させる流れを確立することができれば、世の中の昇給スピードとは関係なく、自身の所得を拡大し続けることができるというわけだ」(同特集より)
自己投資が大事とは、自己啓発的な特集の多い「プレジデント」らしい切り口だ。「r型人間」「g型人間」と二分し、生活習慣の見直しを提案する。
例えば、仕事術ではこうだ。g型人間の仕事術は「進め方を考える前に仕事にとりかかる」「責任を負いたくない」「残業代で稼ぐのが目標」「熱意と気合いで売る」。これを「仕事を速く進める方法を考える」「責任を引き受ける」「成果を出すのが目標」「売る仕組みを考える」といったr型の思考に切りかえることが大事なのだという。
r型人間、g型人間とはいいながら、よくありがちな「できる社員」「できない社員」の特集でしかないように思える。
「r型人間は(略)『仕事を効率化→時間的経済的に余裕ができる→自分のやりたいことに主体的に取り組む→ワークとライフの境目がなくなり、24時間が仕事に→仕事を効率化』というサイクルを持っているのだ」(同)
こうしたr型人間は、年収2000万円以上になるというが、「成果を出すのが目標」「24時間が仕事」との論理は、単なる成果主義でしかない。
「プレジデント」は巻頭で、1月31日のピケティ氏の来日記者会見の内容も掲載している。この記者会見で、ピケティはある種の不平等を正当化する成果主義的な考え方を批判している。そもそも、r型人間は「プレジデント」の自己啓発的な特集を読むのだろうか。
(文=松井克明/CFP)