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スポーツカーや2ドア、なぜ売れなくなった?軽人気に死角 飽き飽き感蔓延、値崩れ寸前…

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スポーツカーや2ドア、なぜ売れなくなった?軽人気に死角 飽き飽き感蔓延、値崩れ寸前…

スポーツカーや2ドア、なぜ売れなくなった?軽人気に死角 飽き飽き感蔓延、値崩れ寸前…

 

 日本の自動車マーケットにおける主力カテゴリーは今、間違いなく軽自動車である。2014年1-12月の新車販売台数は約556万台で、そのうちなんと227万台が軽自動車(うち43万台は貨物)だった。車名別トップ10を見渡しても、軽以外の登録車はトヨタ「アクア」「プリウス」、ホンダ「フィット」の“ハイブリッド御三家”のみという状況。登録車のみのトップ10すべてを合計しても120万台少々(うち御三家で60万台)にしかならず、一モデル当たりの人気という点では、御三家以外のほとんどの登録車は軽自動車にかなわない。

 その状況は、これからも続くのだろうか。もちろん、軽自動車が日本人の足として活躍する時代は続くと思われるが、死角がないとはいい切れない。

 原則、今年4月以降にナンバーを付けた軽自動車には増税措置が取られるし、17年4月の消費再増税も控えている。軽自動車がこれほどまでに人気を得ている最大の理由が、維持費用の圧倒的な経済性にあったことは間違いなく、ユーザーにとって単純なコスト増となる増税が軽自動車の販売動向に与える影響は、決して少なくないとみていい。

 さらに懸念すべき材料もある。14年の熾烈な販売台数戦争の後遺症ゆえか、今年1月の軽自動車販売台数は一部車種を除き軒並みダウンとなっているのだ。そのカラクリの解説は別稿に譲るが、大手メーカーによる販売合戦の裏には、自社名義による届出=ナンバー登録という「販売台数の水増し」があった。この手法は、なにも軽自動車に限らず高級輸入ブランドまで幅広く行われており、自動車を安値で買えるためユーザーにとっては必ずしもデメリットばかりではなく、業界の常套の手段である。

 一部地域を除き車庫証明の提出など煩雑な登録手続きが要らず、届け出だけでナンバーを取得できる軽自動車では、自社登録がより横行しやすい。特に、スズキとダイハツによる首位争いが激化した昨年12月には、両社取り扱いディーラーによる自社名義物件が大量に発生し、今現在でも中古車マーケットにはいわゆる届け出済み未使用車が大量にあふれ、相場も値崩れ寸前という事態になっている。

 ナンバーが付いただけの新車同然の在庫がズラリと並び、しかもある程度割安で売られているという状況が、新車販売に影響を与えないはずがない。結果、1月の大幅な新車販売台数ダウンを招いてしまった。言ってみれば「自分で自分の首を絞めている」というわけだ。その後、2月になって販売台数は一気に回復をみせたが、それは増税を控えての駆け込み需要が始まったからで、“先食い”であることには変わりがない。もちろん、ディーラーもそのことは認識していて、早くも4月以降の増税分値引き対策を検討する販売会社も多い。

●個性派モデルの登場

 見方を変えると、それだけ軽自動車マーケットが成熟したということでもある。特に少子化と高齢化を抱えた日本のマーケットでは、比較的高額な工業製品市場の成熟が、昔よりも早いスピードで進んでいると思われる。

 もちろん、軽自動車メーカー各社はそういう状況を把握しており、昨年来成熟しつつある国内軽自動車マーケットに向けて、ありとあらゆる手段で攻勢をかけ始めた。それが、スズキ「ハスラー」やダイハツ「コペン」、ホンダ「N-ONE」「N-BOXスラッシュ」といった、個性派モデル=ユニークセラーカーの登場である。

 実をいうと、このような戦略は自動車業界にとって別段目新しいものではない。過去には、セダンがファミリーカーとして一世を風靡した1980~90年代にかけて、ハイソカーとしてその上をいく2ドアクーペやスポーツカーのブームがあったし、最近ではミニバンブームの後を追ってクロスオーバーSUVが人気を得た。

 要するに消費行動は、あるレベルまでは爆発的に同一の趣向を目指す(=ベストセラーカー)ものだが、飽和点に近づいてくると、自動車の場合は少なくとも10分の1程度の割合で“人とは違うモノ=ユニークセラー”を欲しいと思う層が生まれる。

 彼らは比較的自由な発想を持ち、独立心も旺盛で、経済的にも余裕があり、ライフスタイルに彩りや潤いを取り入れようとする傾向を持ち、ベストセラー層からの憧れにもなり得る。供給側としても、そういったシンボリックなユーザーを個性的に演出した自社製品と紐付けながら育てておくことで、ブランドイメージの向上を図ることができるというメリットがあった。

 ある程度成熟したマーケットで、供給側はそういったユニークセラーカーを所有する階層を意識的に形成して、裾野をもっと広げようと画策するわけだ。これまで軽自動車といえば、スズキ「ワゴンR」に代表されるトールワゴンタイプや、ダイハツ「タント」に代表されるトールバンタイプが主流であった。昨年売れに売れた軽自動車の内訳をみれば、ダイハツ「ミラ」やスズキ「アルト」といった以前の主流であったセダンタイプも25万台程度と健闘してはいるものの、やはり非主流感は否めない。これからも、背の高さが魅力の二系統が軽自動車のメインストリームであり続けることは間違いない。

●ユニークな軽人気の理由

 一方で、これだけ同じようなカタチのモデルが街にあふれだすと、「なんだか最近の軽自動車のカタチには飽き飽きしてきた」「けれども、便利で経済的な軽自動車はやめられない」といったユーザーも間違いなく増えていく。そう、以前のクーペ志向やスポーツカー志向と同じようにだ。

 コペンや、これから発売予定のスズキ「アルトターボRS」、ホンダ「S660」といったスポーツモデルや、ハスラーのようなクロスオーバータイプなどは、そういったマーケットの成熟化に対するメーカーの回答にほかならない。そう考えれば、2ドアクーペやスポーツカーが売れなくなった理由もおのずとわかるだろう。4ドアセダンが売れなくなったから、その特殊形であるクーペやスポーツカーに乗って目立とうと思う人も減ってしまったのであって、決して純粋に好きな人が勝手に減っていったわけではないのだ。

 今やセダンそのものがスペシャルな存在になっているし、4ドアクーペなども登場しているからなおさら、2ドアモデルが売れる土壌ではない。そのかわり、スペシャリティな領域としてユニークなコンセプトの軽自動車や、背の高いミニバンに対抗するクロスオーバーSUVが存在し、人気を博しているのだった。
 
 果たして日本の軽自動車は、どこに向かうのだろうか。他に類を見ない箱庭盆栽のようなテクノロジーは、もう少し規制を緩和させることによって、発展途上国ではもちろんのこと、成熟マーケットにおいても非常にチャンスのある商品になると筆者は踏んでいる。
(文=西川淳/ジュネコ代表取締役、自動車評論家)

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