政治そのほか速
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先日、「週刊文春」(文藝春秋/2月5日号)を読んでいたら、ある大手総合商社の新社長就任に関する記事が目に留まりました。64歳の前社長の後任に、32人抜きのサプライズ人事で54歳の新社長が就任したことを受けて、本命視されていた2人の専務うちの1人の方のコメントが紹介されていました。
「まったく驚かなかったと言えば嘘になります。ここまで若返ったのかと思いました。これから一致団結して社長をサポートしていかないといけません」
この方は58歳で、新社長とは4歳しか違いません。世間的には、58歳と54歳の差などあってないようなものにも思えます。それでも「ここまで若返った」という言葉が出てきてしまう点に、一流商社マンは市場との競争だけでなく、熾烈な社内競争にも新卒から何十年も打ち勝たなければならない宿命を背負っているのかと感じました。一方で、社内競争が一段落ついてしまったら、そのエネルギーはどこに向けるのかと興味が湧きました。
本連載の前回記事『パートタイマー以下…大企業OBはなぜ「使えない」?退職後に新環境で働けない人材とは』では、大企業を勤め上げたOBが中小企業でアドバイザー的に働こうかという際に、障害になってしまいがちな癖について解説しました。今回は、別の企業で働くという状況に限定せず、大企業OBが仕事以外の世界においても陥りがちな2つの失敗についてみていきましょう。
●NG1:ダメなところばかり見て、良い部分を見ない
立派な企業と悪い企業では、組織を構成する社員の平均レベルは当然異なります。平均値の高い企業から低い企業に行くと、人間の習性としてアラばかりが目に入ってしまいます。当初は「私はそんな企業を良くするためにやってきたのだ」と思ってはいるものの、だんだんと良い結果が出てこない時間が長くなると、アラを指摘すること自体で一仕事した気分になってしまいます。
指摘しているアラが真実であろうとも、それでも企業として今まで継続してきたからには優れた点があることに違いなく、その理由をきちんと理解しなければなりません。その上で一定のリスペクトを心の底から持っていないと、なかなか社員との対話が成り立ちにくいです。
著者の仕事は、業績不振企業の再建の手助けをすることが中心です。企業が業績不振に陥る原因は、社員が自信を失っていたり、ワンマン経営者が長らく権力を振るっていたために社員が考える力を失っていたりと、結果的に社員が各人の本来の能力を発揮できていないことが大半です。そうしたネガティブな状態に陥っている社員と新しいチャレンジをし続けなければならないため、ストレスが必然的について回り、酒の席では愚痴の一つも言いたくなってしまいます。筆者がコンサルティング会社にいた頃、酒の席で先輩社員に愚痴をこぼしてしまった時に言われたのが、次の言葉でした。
「あのさあ、中沢。人間、誰しも完璧なわけないだろ? お前だってそうだろ? 悪いところ見たって、お互いにいろいろあるんだから、憎しみしか生まれないよ。良いところ見なきゃ。夫婦と一緒」
ぼやいていたところで、一緒に仕事をするメンバーがある日突然変わるものでもありません。野球やサッカーなど団体スポーツのように、チームとはそれぞれの個人が役割に応じてがんばって連携することが大切なのであって、社員一人ひとりが全部のポジションを完璧にやることを期待しても無理な話です。それどころか、自分自身がそこまで完璧な人間なのか、傲慢なんじゃないのか、ということをその先輩から教えられました。実際に彼はスポーツをやっていた人であったこともあり、企業組織や仕事上の取引においても十分に相通ずることであるので身に染みました。
●NG2:「わからない」が言えず、対話のスタートラインに立てない
言わずもがなですが、他人同士が目と目で通じ合うことができるのは、同じ組織や集団で長い時間過ごしていたって難しいことです。これが、違う組織で長年過ごしてきた人同士であった場合には、目と目で通じ合うどころか、何度も同じ会話を繰り返したところでわかり合えないのがごく普通のことです。
それでも粘り強く、いろんな情報を追加的に集めたり、言い方を変えたり、他の人の協力を仰いだりして、考えていることをしつこいくらい伝えなければなりませんが、それがなかなかできません。ましてや高齢になってくるとなおさらです。
さらには、大企業OBは、継続的な対話にはちょっとした怖さを抱いているようにも思えます。自分に何かわからないことがあった場合、例えば前回連載記事で触れた「まず仕組みからつくっていかないと中小企業ではうまくいかない」という課題に遭遇した時に、何から始めたらいいかわからない状態にあったとします。対象が何であれ、大企業OBは「わからないことがある」ということを他人に知られるのが怖いと捉えてしまいます。素直に「まあ、具体的にどうすればいいか、一緒に考えていきましょうか」と言うことは、プライドが許さないのです。うまく自己を否定できない心理が邪魔をします。
そういう人は、実は前職の大企業で成し遂げてきたことは、それまで会社に蓄積されていたものやチームの力が大きかったのであって、自分個人による影響は小さかったということに、少し自分でも気づいています。良い企業でも悪い企業でも、組織に属している以上は、組織の力に助けられて個人は成果を出せます。特異的に優秀な人でもなければ、組織を辞めた翌年から年賀状が一通も来なくなることなんてごく一般的なのですが、その現実を直視したくなかったりもします。
ただ、そうしたことも受け入れて、捨てにくいプライドを捨てたときに初めて、率直な会話ができるようになります。すると人間は動物ですので、相手もそれに気づいてお互いに対話が進むようになり、新たな組織への貢献が生まれるようになってきます。
今回は2回にわたって、大企業を卒業した人が第二の職業人生として中小企業で顧問やアドバイザーとしてうまく働くための反面教師の例、コツを述べてきました。技能の伝承や高齢者の活性化という、日本の社会構造の変化において横たわる課題解消へのささやかな一助となればありがたいです。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)