横綱を擁する部屋の力士にとって、横綱土俵入りでの露払いや太刀持ちを務めるのは、誇りだ。

　去年の秋場所、照ノ富士（２３）は自己新の東前頭筆頭にあがった。初めて兄弟子の宝富士を抜き部屋のＮＯ・３に。「よしっ、これで横綱土俵入りに加わることができる」と小躍りした。それまで部屋の横綱、日馬富士の土俵入りをＮＯ・２、３の安美錦と宝富士が独占していたからだ。

　ところが番付発表から間もなく、師匠の伊勢ケ浜親方（元横綱旭富士）がつれない宣告をした。

　「土俵入りのメンバーがコロコロと変わるのはあまりよくないので、これからも今のメンバーのままでいく」

　エエッ、それはないでしょうと照ノ富士はガックリしたそうだが、鬼より怖い師匠の決断だからどうしようもない。それならもっと上に上がって認めてもらうしかない。そう気を取り直し、よりいっそう稽古に励むようになった。

　これこそが師匠のねらい。このムチ作戦が功を奏し、今場所ついに関脇に。初土俵から所要２３場所は史上９番目のスピード昇進だ。それでも伊勢ケ浜親方は土俵入りのメンバーには入れなかった。そんなにやりたかったら自分で（横綱にあがって）やればいいじゃないか、と新たなムチを入れているのだ。

　おかげで手を抜く暇がない。初日から４連勝と好調を維持。逸ノ城との出世争いが面白くなってきた。　（大見信昭）