豚肉、牛肉、鶏肉。食卓に並べられる食用の家畜の肉。人間は過去数百年・数千年にわたり、動物を食用として飼育し、育ててきた。古い時代には飼育した家畜は貨幣と同じような価値があった。そこまでは知っている人も多いと思うが、その起源まではわかる人は少ないと思う。
ここでは、海外で良く食されている食肉動物がどのような経緯で誕生したのか、その歴史を見ていくことにしよう。
■ 10. ウサギ
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欧州、中国、南米、北米、中東の一部の地域で食されているウサギだが、かつてブリーダーたちは、ウサギを何にでも使える「マルチ動物」として育て上げようとしてきた歴史がある。
現在最も食用として流通しているウサギはニュージーランド白ウサギだ。名前にニュージーランドとあっても、飼育されているのはアメリカだ。このウサギがどうやって誕生したのかは諸説あるが、カリフォルニア州のブリーダー「W.S.プリショウ」という人物が生み出した、という説が主流となっている。
彼はアンゴラウサギとアメリカ白ウサギを交配させ、そこにフレミッシュ・ジャイアントという大きなウサギの遺伝子を少々交配させ、このウサギを作り上げたのでは、と言われている。
■ 9. アメリカン・インディアン・ヨーロピアン・ターキー(七面鳥)
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何故ターキーに「アメリカ」という文字が入っているのには訳がある。昔スペイン人がアメリカ大陸に上陸した際、アメリカ土産として様々なものを本国に持ちかえった。そのうちの1つがアメリカのターキーだったという。ターキーはヨーロッパでその数を増やし1948年にはヨーロッパ大陸全土に広がっていった。1540年にはイングランドでも発見された。そのせいか1570年にはターキーをクリスマスに食べるのはイングランドの風習とも言えるようになった。
アメリカの七面鳥は過去に英国人がトルコの商人から買い取ったアフリカ原産の鳥に似ていたため、ターキー(英語でトルコを意味する)と名付けた。一方でトルコの商人は、逆に七面鳥がインドから来たのではないか、と誤解していたようだ。これは、コロンブスが初めてアメリカ大陸に上陸した時「インディーズ」と言った事による誤解から生じたものだろうと考えられている。そんな経緯でアメリカとインド、ヨーロッパとトルコの4つの国の名前がついた七面鳥は、ヨーロッパで品種改良されて定着していった。
■ 8. 現在食用として市販されている七面鳥
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現在欧米でもっとも流通しているのは、「ブロード・ブレステッド・ホワイト」という品種である。…1700年代から1900年代までは、ブロンズ(またの名をブロード・ブレステッド・ブロンズ)という品種のターキーが最も一般的だった。茶色い羽根が目立つこの鳥はヨーロッパ・ターキーとワイルド・ターキーの交配によって誕生した。
この七面鳥は長い年月をかけて胸が大きくなるように改良が成された。冷蔵庫のサイズが小さかった1930年代の消費者は3.6キロから6.8キロの鳥を買い求めた。特に羽が汚く見えない品種が人気だったようだ。
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ブロード・ブレステッド・ブロンズ
1951年、消費者が求める「ルトスヴィール・スモール・ホワイト」という品種が誕生したが、悲しい事にその頃には冷蔵庫の技術開発が発展しており、七面鳥の大きさを気にする人は少なくなっていた。
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ルトスヴィール・スモール・ホワイト
1965年に「ブロード・ブレステッド・ホワイト」という品種が誕生して以降は、これが人気を博しているようだ。
ちなみにブロード・ブレステッド・ホワイトは自らの力で生存する事は出来ない品種である。品種改良で筋肉の成長がすさまじいため、それに骨や関節が追い付かず、自分自身で歩行する事も困難なのだ。この品種の鳥は若くして食べられるのでどちらにせよ寿命は長いとは言えない。
こういった事もあってか、1990年代から農家と動物園の人々はターキーの「自然化」を促している。自然化されたターキーは自身で交配が出来、成長まで最低でも28週間かかり、寿命も長いのだ。
■ 7. 3匹の子豚の原点
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前世紀の終わりに、3種の有名なブタがいた。ワイルドボア(イノシシ)とポークピッグとラードピッグだ。イノシシは赤肉を取るのに重宝され、ラードピッグは小型で、足も小さく、成長が早かったため、工業用潤滑剤用に脂肪が重宝された。その後家畜化されたブタはラードピッグよりも脂肪分が少なく、イノシシよりも赤肉が多かったそうだ。
■ 6. 品種改良されたブタの問題点
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1950年代に大改良を遂げたブタだったが、今度はあまりにも脂肪分が多すぎたため、ブタの脂肪は余計な副産物となった。これを機に農家の人々は脂肪分が少なく、筋肉質なブタを作り始めた。
こういったブタは以前のブタよりも速く走る事が出来たり、サイズも大きかったが、健康とは言えなかった。これらのブタは必要最低限の脂肪分がないため、環境に弱く、室内で飼われる事が多かった。…室内で飼われた豚肉は他の肉よりも品質が落ちている為、ハムやソーセージなどに加工されてから消費者に販売される。
■ 5. ニワトリと卵
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今ではどの国でも食されているニワトリだが、もともとは東南アジアの動物で、7000年から1万年前にセキショクヤケイを家畜化したものだ。
それ以来、人類は幾度となくニワトリを品種改良してきた。通常であればニワトリは季節ごとに産卵して育つはずだ。しかし、人類が作り上げた品種改良されたニワトリは甲状腺ホルモンの分泌を操作されており、年中卵を産む事が可能なのだ。
■ 4. ガチョウ
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まずガチョウ(家畜化されたガン)について知っておきたい事はその交配の経緯だ。現在見られる数多くの家畜となったガチョウは全てヨーロッパガンと中国系のシナガチョウの交配によって生まれたものだ。ちなみに、ヨーロッパのガンは元々ハイイロガンから品種改良された種であり、シナガチョウはサカツラガンから品種改良された種である。
昔、ガチョウは今よりも頻繁に食されており、それこそ現代のブタと同じぐらいの頻度で食されていた。ガチョウという生物は基本的には草食動物であり、農家の人々はガチョウを畑に放し飼いにして育てていたそうだ。ガチョウは畑にとって有益な存在であると共に、卵を産み、後に良い食料となった。
しかし現代の人々はあまりガチョウを食べなくなった。その大きな理由の一つはガチョウが成熟するまでに2年以上かかるという点にある。人々はガチョウのように成長まで時間が掛かる生物を欲しがらなかったのだ。
■ 3. 羊
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羊は家畜化されてから既に5000年近くが経過している。東南アジアから始まった家畜化はたちまちアジア全土を覆い尽くし、ロシア、ヨーロッパに広がった。
元々は食料としての役割が大きかったが、このリストにある他の動物たちのように、他の用途が見つかりさえすればすさまじい勢いで品種改良がなされていった。1000年ほど前に羊毛が有益な物であると分かって以来、羊毛をメインにした羊の品種改良が加速した。
プリミティブ・ブリーディングと呼ばれる手法で生み出された初期の羊たちは、きめ細かく、黒く、短い毛を持っている。その後、染色技術の発展により、白い羊毛が好まれるようになった事と、角が短く、角の無い雌が存在する新種が登場した事により、黒い毛を持つ初期の品種は廃れていった。…刈り取りの際の事故のリスクが少ない角の短い品種のほうが有用だったのだ。
もちろん、その初期の品種全てが絶滅したわけではない。農家の人々によって「予備」として飼われている。しかし、数が少なくなってしまったのは事実なので、現在では食用として使われる事は滅多にない。
■ 2. 牛は人類の素晴らしい近親交配の技術のたまもの
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現在世界中にいるすべての牛の祖先は、たった80匹の牛だといわれている。彼らの原種は身長およそ2メートルで、人の腕と同じぐらいの長さの角を持つ「オーロックス」という牛だったのだ。
聞いただけで身震いがしそうな外見から、当時は誰もが恐れる存在だったこの牛は、ある勇敢なイラン人の農家によって数千年前に家畜化され始めた。そこから幾代にわたり受け継がれたオーロックスは世代ごとに少しずつ増え、現在では世界中で見られる「牛」という存在になった。
■ 1. アメリカのステーキ用牛肉
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あなたがアメリカのステーキハウスでステーキを注文したら、一般的にでてくるのは「ブラック・アンガス」という品種の牛である。ブラック・アンガスはアメリカで最も有名な牛の一つで、テキサス・ロングホーンとスコットランドのアンガス牛の交配によって誕生した。
1842年、ブリーダー「ヒュー・ワトソン」はその後アンガス牛と名付けられる事となる「オールド・ジョック」を家畜として育てていた。「オールド・ジョック」とその交配に使われた「オールド・グラニー」は、29匹の子孫を残した。ちなみにオールド・グラニーの方は子どもを残した後、雷に撃たれて亡くなったといわれている。現在アメリカで生存している全てのブラック・アンガスはこの2体を起源としているのだ。
via:io9・原文翻訳:riki7119
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