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認知症患者送り届け、美談で済まない想定外問題

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認知症患者送り届け、美談で済まない想定外問題

認知症患者送り届け、美談で済まない想定外問題 京都府警下鴨署が昨年10月、保護した認知症の男性(75)を徳島県内の自宅まで署の車で送り届けていたことがわかった。

  同年5月にも同府警右京署が保護女性(72)を新幹線で自宅の盛岡市まで送っている。いずれも異例の対応だが、美談では済ませられない問題が横たわっている。

  府警によると、男性は昨年10月29日夜、JR京都駅でタクシーに乗車したが、行き先などの説明が意味不明で所持金もないとして下鴨署に連れて来られた。所持品の運転免許証などから男性は徳島市の北隣の徳島県松茂町で一人暮らしで、未診断だが認知症の症状が出ていることがわかった。

  だが、男性宅の近所に住む姉は「足が不自由で行けない。後で運賃を払うのでバスで戻して」と言い、保護を求めた京都市も「検討の時間がほしい」と答えるにとどまった。同署は男性を単身で帰すのは危険と考え、翌30日、捜査用車両で姉宅まで送った。男性は認知症と診断され、グループホームに入所したという。

  右京署も同年5月下旬、一人暮らしの認知症の女性を保護。親族や同市に引き取りを断られ、新幹線で約700キロ離れた盛岡市まで送り届けていた。

  警察は保護した人を24時間以内に親族か役所などの公的機関に引き継ぐよう法律で定められている。警察署にも保護室はあるが、泥酔者らを一時的に預かるためで、長期の保護は本来の業務ではないのだ。

  では、なぜ公的機関は引き取りに応じなかったのか。京都市は「保護者が切迫した状況では、現在いる自治体が保護する」との生活保護法の規定に基づき要請された。

  だが、同市によると、2人とも地元で生活保護を受けており、保護費を出せば、同法が禁じる二重支給となる恐れがあったという。ほかの法的根拠を検討している間に「24時間以内」の規定がある府警が「時間がない」として送り届けることになったというのだ。

  居住先の盛岡、松茂両市町は「前例がなく、すぐに迎えに行くだけの人的余裕がなかった」としている。

  厚生労働省は「認知症患者が自宅から遠く離れた場所で保護されるのは法の想定外だった。交通機関が発達し、独居の高齢者が増えるなか、同様の事例は今後も起こりうる」とする。

  今回の問題を受け、京都市はホームレスの人がホテルに短期宿泊できる制度の活用を検討している。保護費とは別の財源なので二重支給の問題は起きない。盛岡市は市外で保護された認知症患者らを迎えに行くための内部要領を作成した。交通費などは市が負担する。

  参考になる取り組みもある。神奈川県茅ヶ崎市では1998年度から徘徊(はいかい)高齢者の一時保護を老人ホームに委託している。95年に行方不明となった認知症の高齢者が死亡した状態で見つかったのがきっかけだった。

  認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長は「支援態勢が整った施設で一時保護した方が良い。そのうえで居住先の自治体職員らが迎えに行くのが理想。京都だけの問題ではなく、国は実態調査を行うべきだ」と指摘する。(桑原卓志)

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