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農業はベンチャー、食は芸術! アイデア生かす跡継ぎ娘

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農業はベンチャー、食は芸術! アイデア生かす跡継ぎ娘

農業はベンチャー、食は芸術! アイデア生かす跡継ぎ娘 

埼玉県入間市「貫井園」 貫井香織(ぬくい・かおり)さん

 

  • 貫井香織さん
  •   「自分で事業を手がけてみたい」

      数年の会社員勤めから生まれてきたベンチャー的思考、そして、実家は農家。そうだ、農業だ。2008年春、「貫井園」(埼玉県入間市)で、お茶としいたけを作る貫井香織さん(36歳)は、こうして就農した。29歳の時だ。

    たまたま、それが農業だった

     

      入間市は「狭山茶」の主産地。貫井さんは、曽祖父の代から続く茶農家に、3人姉妹の長女として生まれ、育った。

      農家や農作業がイヤだと思ったことはない。一方、長女だが、両親から実家を継ぎなさいと言われたこともない。ただ、特に就農の意思はなかったので、高校から東京の私立学校に進学し、成蹊大学経済学部を卒業して、採用関係のベンチャー企業に就職。そこで約6年勤めて、PR会社に転職した。

      そのころ、これからどうしていくかを考えた。どうせなら、自分で事業をやってみたい。しかし、何をしようか……実家が農家じゃないか、これを大きくしていこう!

      「農業をやりたいというより、事業をしたかった。実家が人形屋さん、お菓子屋さんならその商売をやっていたでしょう。たまたま、それが農業だったんです」と貫井さん。東京でひとり暮らしをして、両親の仕事を少し離れたところから見ると、いいな、と感じるようになっていたこともあるという。

      「母親には反対されました。『東京で暮らして、東京で働けるのになんで? あなたにはできないでしょう?』って。私の性格は飽きっぽい、辛抱きかないのを知っているので(笑)」

    「好きなことをやりなさい」

     

    • 貫井園の店舗。父娘でいろんな表彰を受けてきた

        貫井園は、両親、貫井さん、社員の4人で、ほぼ家族経営スタイル。

        もともとは茶農家だが、しいたけ栽培も30年ほど前、父親の義一さんが仲間から勧められて始めている。茶の栽培は毎年5月ごろから忙しいが、冬場は時間が空くため、その時間を充てて収入を得られるからだ。現在では、しいたけの売り上げの方が茶より多くなってきているという。

        さて、就農した貫井さん。中学生のころに家の手伝いをアルバイト的にしたことがあるくらいで、基本的にはゼロからのスタート。よくわからないので、農作業をする義一さんの後をついて原木を動かしたり、作業の現場で1~2年は、そんな感じだったという。

        しかし、前からあたためていたアイデアは次々に実現させた。就農後まもなくインターネットのオンラインショップを始めたほか、海外にお茶や干ししいたけの販路を広げたり、東京都内のレストランにしいたけを卸したり、作物のよさを知ってもらうための活動を手がけた。最近は、講演に呼ばれ、自分のしていることについて話す機会も増えてきたという。

        「両親には『好きなことをやりなさい』と活動させてもらっています。恵まれているのでしょうね」

      農業後継者のネット「こせがれ」の広報も

       

      • お茶としいたけ 貫井園のウェブサイトより

          この間、「NPO法人農家のこせがれネットワーク」の準備・設立や広報にかかわっている。同ネットは、会社員経験を経て実家の酪農業を継いだ宮治勇輔さん(現代表理事)らが、「跡継ぎ息子・娘が帰農し、農業を、かっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にしよう」などと考え、立ち上げた団体だ。

          貫井さんは、その前の段階で、ブタを使ったサンドイッチのイベントで宮治さんと知り合い、団体の立ち上げなどに加わった。「『ノギャル』や家庭菜園が流行して、盛り上がっていた時期でした」。しばらく、同ネットの広報関係を担当。09年8月にNPO法人化され、スタッフも雇用され始めたのを機に、事務局を離れ、今はメンバーのひとりとなっている。自分にとっては、同じような志を持つ仲間のサークル的な意味合いが強い。

          ※参考 “農家のこせがれ”が、安心して農業を継げる社会へ

          貫井園で扱うのは、切り出した自然の木に種を植えて栽培する「原木しいたけ」。

          「収穫に時間がかかりますし、原木を置く土地を確保したり、木を動かしたりする必要があるなど、手間暇がかかるので、(オガクズなどを固めたブロックで栽培する)菌床しいたけなどに比べると値段は高くなりますが、味わい、香り、歯ごたえはやはり原木ですよ」

        • 直射日光を浴びないので肌は日に焼けにくいとか
        • 農林水産省「農業女子プロジェクト」でも活躍(昨年10月、サブウェイとのコラボレーションによるランチバッグ「畑からの贈り物」の開発メンバーに)

            同園ではコナラを使う。長さ90センチに切った原木の重さは5~10キロ。これを手作業で一本一本、ビニールハウスなどに運ぶ。原木置き場は3か所あり、1万本以上置いてある。種を冬に植え、1年後の冬から収穫が始まる。

            冬場の今、朝5時に両親が起き、貫井さんは7時ごろ起きだす。「朝が弱いので…」。そして、両親がその日1回目の収穫をして、袋詰め、パック詰め、市内5か所などを回って配達をして…のあたりから貫井さんも仕事にとりかかる。夕方が2回目の収穫。貫井園ではこうしたスケジュールが、9月から翌年6月まで毎日繰り返されるという。また、レストランや個人への商品発送なども担当する。レストランは1週間か10日に1度の注文がくるが、シーズンになると30店舗ほどが扱うので、時間に追われる。

            「仕事は楽しい。性に合っている。新しいことにチャレンジしたい」

            昨年秋、「食べる楽しみ」の情報サイト「HUGKUM―はぐくむ―」を立ち上げた。貫井さんは、農作物を「育てる」農業者。そこからもう一歩踏み出して、作った物がどんな人の手で、どのように調理されて、誰に食べてもらえるのか、そこまで関わっていきたい、一緒に食を楽しむ場をつくりたいという思いをこめた。しいたけを使った食事会やレシピ、合うワインの紹介などを載せている。

            「食べる」ことを、エネルギー源の消費だけではなく、人生の楽しみ、喜びの瞬間にしてほしい。いろんな関係を育てていく。

            「食事は、自分が中に入って参加できる芸術だと思います。絵画鑑賞やコンサートなどは、鑑賞者や観客として外側にいるでしょう。食べることは、そこを中に入ること。食べることで完結する芸術ではないでしょうか」

            こういうのに関わる農業って楽しいな、そうつぶやく貫井さんからは、まだまだ新しいアイデアが生まれてきそうだ。

            (メディア局編集部 京極理恵)

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