政治そのほか速
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背広のポケットにしのばせた真っ赤な丸いスポンジを鼻に付けると、道化師のとぼけた表情になった。
昨年12月中旬、東京都品川区の昭和大学病院内にある区立清水台小・院内学級。副島(そえじま)賢和(まさかず)さん(48)の姿に、子どもたちが笑顔を浮かべ、名前にちなんで「ソエジー」と呼びかけた。
昨春まで8年間、院内学級の担任を務め、同大准教授になった今も、週3日は足を運ぶ。入院中の児童4、5人に勉強を教えたり、一緒にゲームを楽しんだりしている。
かつては、小学校の熱血教師だった。休日には子どもたちを引き連れて隣の小学校に出かけ、サッカーの対抗戦に汗を流した。だが、29歳の時、病気で肺の一部を失い、激しい運動ができなくなった。「もう子どもたちと一緒に走れない」と落ち込んだ。
その後、高校生になっていた教え子が亡くなった。病状が急に悪化し、見舞いにも行けなかった。「病室でどんなふうに過ごしていたのだろう」。心が痛み、闘病中に知った長期入院の子どもたちが頭をよぎった。「退院すれば幸せになるのだからと安易に考えていたが、病院の中だって幸せになる方法はあるはず」。院内学級への異動を希望した。
平日の4コマの授業を受け持ったが、子どもたちはなかなか打ち解けてくれない。病気やけがへの不安を抱え、思うように勉強もできず、自信を失っているようだった。「笑顔を取り戻してほしい」と病院で活動するホスピタル・クラウン(道化師)の研修を受けた。
授業では、自分の失敗をあえて見せるようにした。時には漢字の書き順をわざと間違える。子どもから突っ込まれると、「ごめん。よく教えてくれたね」と辞書を手にとる。「失敗してもいい」とわかれば安心し、自分でもやってみようという気持ちになれるからだ。
教室には、握りずしや菓子など、子どもたちがカラフルな紙粘土で作った「どうしても食べたいもの」が並ぶ。「病気で食べられないつらさ、悲しさ、怒りを表に出すことで、次に向かうエネルギーに変えてほしい」と願う。
様々な病気で入退院を繰り返す子どもが多く、学級の顔ぶれは頻繁に変わる。6回入院し、今は大学に通う女子学生(20)は「そっと、でも、しっかりと私たちを見ていてくれた。先生の前だと、病気の不安や将来への恐れもなぜか言えて、友達に会ってみよう、とか思えた。勇気をもらった気がする」。
子どもたちから「魔法使いみたい」と言われる副島さん。本人は「不思議な力を持っているのは子どもたちの方。教師にできるのは、心の蓋(ふた)を取り除くきっかけをつくり、そばにいることだけ」と話した。