政治そのほか速
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■「捨てたもの」のプライバシーは?
家庭ごみの分別ルールを守らない違反者を特定するため、ごみの開封調査をする自治体が増えている。政令指定市では横浜市、千葉市、札幌市。来年度は京都市も導入予定だ。
分別の徹底でごみの減量を図りたい自治体の意図はわかる。しかし、ごみの中には、センシティブなものや個人情報も含まれている。開封調査はプライバシー権の侵害にあたらないのだろうか。板倉陽一郎弁護士はこう解説する。
「プライバシー権が国家との関係で憲法上保護されるのは、争いがありません。ただ、無制限に認められるのでなく、必要に応じて制限される場合もあります。たとえば刑事事件での家宅捜索や、税務調査などがそうです」
公益を目的にしているという意味では、ごみの開封調査は刑事事件の捜査や税務調査と同じ。しかし、大きく違う点もある。手続きの厳格さだ。
刑事事件で捜査機関が家の中を調べるときは、裁判所で令状を得る必要がある。また、税務調査では、調査官は通常より重い罰則付きの守秘義務を負っている。それに対して、ごみの開封調査に関する手続きは曖昧だ。
「開封調査している自治体の条例を見ても、開封調査を明文化した条項はありません。解釈で可能だとしても、どのような場合に開封して、どこまで調べるのか、調査員は得た情報につきどのような取り扱い義務を負うのかといった手続きが書かれておらず、フリーハンドでできるようにすら読めます」
これでは市民は安心してごみを出せない。開封調査を進めるなら、手続きの明確化は欠かせない条件だろう。
ちなみに、「ごみは、捨てた時点で所有権を放棄しているものだから勝手に見たっていいじゃないか」という理屈は通用しない。
「所有権とプライバシー権は別です。病院のカルテの所有権は病院にありますが、それを漏らせば患者のプライバシー権が侵害されます。ごみも同じ。所有権の所在に関係なく、本人の了承なく開封すれば、プライバシー権の侵害です」
■違反ごみを見たらどうすべきか
開封調査について明確にしておいたほうがいいのは、マンションの管理組合や自治会などでも同じだ。分別されていないことを理由に自治体がごみを回収せずに放置するケースがあるが、元の持ち主を調べようと開封すると、プライバシー侵害になるおそれがある。誰のごみか調べたいなら、管理組合であらかじめ開封調査のルールを定めて合意を得ておいたほうがいい。
言うまでもないが、個人的な覗き趣味から他人のごみを開封するのもプライバシー侵害になりうる。
自治体がやるにせよ、住民がやるにせよ、開封調査をしないで済めば、それに越したことはない。ごみ袋に名前を書いたり監視カメラを置くなど、他の対策も模索したいところだ。
ジャーナリスト 村上敬 答えていただいた人=弁護士 板倉陽一郎 図版作成=ライヴアート