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【ブリュッセル斎藤義彦】欧州連合(EU、28カ国)のユンケル欧州委員長は8日付の独紙で「EU軍を創設すべきだ」との考えを示した。欧州には北大西洋条約機構(NATO)の軍があるが、EUには常設の軍は事実上なく、6カ国がNATOに加盟していない。ウクライナ問題を機にロシアに対して脅威論が高まっており、今年6月のEU首脳会議では防衛政策の見直しを協議する予定で、軍創設が長期的課題になりそうだ。
ユンケル委員長は独紙ウェルト日曜版でEU軍創設が「共通の安全保障・防衛政策を確立し、世界で(EUが)責任を果たす助けになる。加盟国や周辺国への脅威に対し、信頼感のある対応ができる」と話した。特にロシアへの警告になると指摘し「EUの価値を防衛することを真剣に考えていることを示す」のが目的とした。一方で「すぐに創設できるわけではない」として、長期目標とするという。
EUでは、クリミアを編入したロシアに対して警戒感が高まり、防衛見直しの必要性も議論されている。EU加盟国でNATOに加盟していないスウェーデンやフィンランド周辺でも、ロシア軍の活動が目立っている。スウェーデン領海でロシア船籍とみられる潜水艦が出没し、ロシア軍機が領空に迫るなどの事態が起きている。6月の首脳会議では防衛に関する新戦略が討議される。
EU加盟国は冷戦終結後、ロシアの脅威がなくなったとして兵力や防衛予算を削減した。加盟国を防衛するNATO軍は、米国が兵力の75%を担うなど、米国に頼り切りになっている。2011年のリビア攻撃の際には欧州諸国に情報収集、偵察、監視能力や大規模輸送能力が欠如していることが露呈し、問題となった。
一方、EUは共通の安全保障・防衛政策を持ち、EUの決定に基づき加盟国が、西アフリカ・マリ国軍に訓練を行う部隊の派遣▽中央アフリカでの治安維持▽アデン湾での海賊対策の艦隊派遣−−などを担ってきた。13年には無人機や空中給油機の共同開発、軍事衛星の共同利用、サイバー防衛などを進めることで合意した。ただ、常設軍は事実上なく、加盟国が持ち回りで危機に対応する「戦闘グループ」の仕組みを07年に作ったが、一度も使われていない。
ユンケル委員長の発言に対し、ドイツのフォンデアライエン国防相は8日、「EU軍を持つことは私たちの未来だ」と支持を表明した。一方、英メディアによると、英政府は反対を表明した。EU軍がNATOと重複するなどの懸念があるとみられる。ただ、米国は、クリミア危機後、欧州の防衛力強化、予算増加を求めており、利害が合致する面もある。