政治そのほか速
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「ちょっと待って」。8月末、新潟県長岡市の高齢者宅。
ベッドに横たわる女性患者(81)の腕をこわごわ握り、血圧を測ろうとした新潟大学医学部(新潟市)の1年生2人に、日頃往診している開業医の佐伯牧彦医師(55)がやんわり注意した。「楽にしてください、と一声かけて測るんだよ」
3人の後ろで、同大の赤石隆夫准教授がその模様をつぶさにメモしていた。〈学生の服装OK。胸ポケットに手帳とペン。態度良好。学生に血圧を測らせてくれて感謝。患者と医師の信頼関係のたまもの〉
今年で15年目となる1年次夏休み中の臨床実習。1年生の全員約120人が県内の約30医療機関に分かれ、2日間、実地で学ぶ。一通り基礎を修めた5年次から臨床実習に取り組む大学が多い中、珍しい試みだ。
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苦労して医学部に入ったのに、講義ばかりでそれらしい授業がない――。実習が始まったのは、学生の不満からだった。教員間でも、医師に向いていない学生には早く自覚させた方がいい、という声が上がっており、追い風となった。
プログラム責任者の鈴木利哉教授は「患者さんに接することで、学ぶ意欲を高めてほしい」と期待を込める。実習前には、学生同士で何を学びたいかを話し合わせ、事後にはリポート提出や発表も課して、成果の向上を図る。
身だしなみや態度への注意も怠らない。ジーパン、スニーカー、茶髪は禁止。話を聞く時にはメモを取る……。「接客業」である医師としての基本も身につけさせるためだ。教員が実習先を巡回し、厳しくチェックする。今回も、ジーンズ姿でメモも取らない学生がおり、赤石准教授に叱責されていた。
学生の多くは将来に向けての手応えを感じているようで、「もっと実習したい」と前向きだ。同大は2、3年次の実習も検討している。
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受け入れ先は、同大卒業生が多く、佐伯医師もその一人だ。「医者はやりがいのある仕事と、後輩に実感させたい」と言う。診察室だけでなく、往診する患者宅にも学生を同行し、血圧の測り方などを教え、患者や家族とのコミュニケーションの取り方を覚えさせるようにしている。
高齢者宅での実習を終えた1年の畠山琢磨さん(21)は、患者を不安にさせない佐伯医師の配慮を目の当たりにし、「自分の将来像がつかめた気がする」と語った。自身が心臓にペースメーカーをつけ、医療の恩恵を受けてきた。「今度は自分が信頼される医師になりたい」と力を込めた。(編集委員 松本美奈)
医学部在学中の臨床実習は、日本では長時間を割かない傾向が強く、見学型が主流だ。しかし、世界保健機関(WHO)の下部組織である世界医学教育連盟等の国際基準では、参加型で、長期の臨床実習を求めている。2010年には医学部卒業者が行う臨床研修について、米国の公的機関が国際基準で認証を受けた大学の卒業者しか23年以降は受け付けないと表明した。日本の医学教育は、現状のままでは米国で研修を受けられないだけでなく、国際的に通用しないとみなされる恐れもあり、対応を迫られている。